会計帳簿上は利益が出ていても、実際の手元資金が枯渇している――。このような状況に陥り、経営危機に直面する企業は少なくありません。いわゆる「黒字倒産」の落とし穴です。
利益とキャッシュフローは別物だということを、多くの経営者が理解しているつもりでも、実際の財務管理ではないがしろにしがちです。たとえば売上は計上されていても、入金はまだ。あるいは在庫は増えたけれど、それが現金化されるのはずっと先のこと。このようなタイムラグが積み重なると、黒字なのに資金ショートという事態に陥ります。
特に成長期の企業では注意が必要です。売上増加に伴い仕入れも増え、人材も増やし、設備投資も進める。しかし入金サイクルが追いつかず、気づけば資金繰りに窮することになります。みずほ総合研究所の調査によれば、中小企業の倒産原因の約7割が資金繰り悪化によるものとされています。
そこで重要になるのが「キャッシュフロー経営」の考え方です。これは単に会計上の利益ではなく、実際のお金の流れを重視した経営手法です。具体的には以下のポイントに注目しましょう。
まず、キャッシュコンバージョンサイクル(CCC)の短縮です。これは仕入れから売上回収までの期間を示す指標で、この数値が小さいほど資金効率が良いとされます。仕入れサイトの見直しや、売掛金回収の迅速化などが有効です。
次に、固定費の見直しです。売上が変動しても一定額発生する固定費は、キャッシュフローを圧迫する大きな要因になります。定期的な見直しで、無駄な支出を削減しましょう。
また、月次ではなく週次でのキャッシュフロー予測も重要です。より短いスパンで資金の動きを把握することで、早期に問題を発見し対処できます。
日本政策金融公庫の中小企業経営者向け調査では、定期的にキャッシュフロー計画を立てている企業は、そうでない企業と比べて経営危機に陥るリスクが約40%低減するという結果も出ています。
健全な経営を維持するためには、利益の数字だけでなく、実際のお金の流れを常に意識した財務管理が不可欠です。黒字という安心感に溺れず、キャッシュフローを重視した経営を心がけることが、企業の真の安定につながるのです。