多くの中小企業が直面する課題の一つに、売上は伸びているのに利益が思うように増えないという悩みがあります。実際、日本の中小企業の約7割が恒常的な利益率の低さに苦しんでいるというデータもあります。しかし、そんな中でも粗利率の改善によって大きく業績を伸ばした企業が存在します。
ある製造業を営む従業員20名ほどの会社では、売上5,000万円から年商1億円への飛躍を遂げました。その成功の裏には緻密な会計改革がありました。この会社が最初に着手したのは「見える化」です。それまでは月次の売上と経費の総額しか把握していませんでしたが、製品別・顧客別の粗利率を細かく分析することから始めました。
すると意外な事実が判明したのです。最も売上が高いと自負していた主力商品の粗利率が実は15%程度と非常に低く、逆に社内であまり注目されていなかった小型の特注品が粗利率45%以上を誇っていたのです。この発見が戦略の転換点となりました。
会社は高粗利率商品に経営資源を集中投下。営業担当者の報酬体系も売上至上主義から粗利貢献度に連動する形に変更しました。さらに製造工程の見直しも行い、低粗利商品の製造時間を短縮する工夫を重ねました。
原材料の仕入れについても、これまでの慣習にとらわれず、複数の調達先を比較検討。さらに発注ロットの最適化によって、原価を平均で8%削減することに成功しています。
こうした細部にわたる改革の結果、全社の平均粗利率は22%から32%へと大幅に向上。利益率の改善が資金繰りの安定をもたらし、新たな設備投資も可能になりました。これが好循環を生み、1億円の大台に到達したのです。
注目すべきは、この会社が特別な技術革新や市場拡大といった外部要因に頼ることなく、自社の数字と向き合い、内部の仕組みを変えることで成長を遂げた点です。ビジネスモデルを根本から変えるのではなく、既存の事業の中で最も効率的な部分を見極め、そこに集中したのが成功の秘訣でした。
中小企業の経営者にとって、この事例が示唆するのは、会計数値は単なる結果の記録ではなく、経営戦略を練る上での貴重な情報源だということです。粗利率という一見シンプルな指標に真剣に向き合うことが、劇的な業績向上につながる可能性を秘めているのです。