経営において数字を見ることの重要性は言うまでもありませんが、特に「売上総利益」を正しく理解していないビジネスオーナーが少なくありません。売上だけを見て一喜一憂する経営者の姿をよく目にしますが、これは危険な落とし穴です。
売上総利益とは、売上高から売上原価を差し引いた金額のことで、粗利益とも呼ばれます。この数字が示すのは、商品やサービスそのものからどれだけの利益を生み出せているかという、ビジネスの本質的な収益力です。
例えば、月商1,000万円の会社Aと500万円の会社Bがあるとします。一見すると会社Aの方が業績が良いように思えますが、売上総利益率を見ると、Aが30%(300万円)、Bが60%(300万円)だとすれば、実質的な収益力は同じということになります。さらに固定費が同じであれば、最終的な利益も変わらないのです。
売上総利益を軽視すると、以下のような落とし穴に陥りがちです。
まず、値引き競争に巻き込まれやすくなります。売上至上主義に陥ると、利益を度外視した価格設定を行い、結果的に経営を圧迫することになります。また、売上を伸ばすためだけに商品ラインナップを増やしすぎて、在庫管理コストが膨らみ、利益率が低下することもあります。
さらに、売上総利益を理解していないと、高コスト体質に気づけません。原価率の高い商品を主力にしていても、売上さえ伸びていれば問題ないと錯覚してしまうのです。実際には、原価管理の甘さが企業の体力を徐々に奪っていきます。
特に製造業やサービス業では、一つひとつの案件や商品の原価を正確に把握し、適切な価格設定を行うことが不可欠です。これを怠ると、忙しいのに利益が出ないという状況に陥ります。
実務的なアドバイスとしては、まず月次で売上総利益と売上総利益率を必ずチェックする習慣をつけましょう。商品やサービスごと、顧客ごとの利益率も定期的に分析することで、どこに力を入れるべきかが見えてきます。
売上を伸ばすことは確かに重要ですが、それは手段であって目的ではありません。経営の真の目的は持続可能な利益の確保です。売上総利益を軸にした経営判断を心がければ、表面的な数字に惑わされることなく、本質的な経営改善に取り組むことができるでしょう。